消化器内科

診療・各部門

消化器内科が診療する主な疾患の解説

*当院消化器外科の疾患解説ページが充実しており、重なる部分についてはここでは省きます。

・消化器悪性腫瘍

a)内視鏡治療

消化管早期癌の悪性腫瘍については内視鏡治療も行っております(食道、胃、十二指腸、大腸)。2022年10月の病院広報誌Waveで内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)について解説しています。
2022年10月発行 病院広報誌Wave

b)化学療法

消化管の進行癌については消化器内科あるいは消化器外科で化学療法(抗がん剤による治療)も行っています。消化管悪性腫瘍の場合、通過障害解除や出血コントロールのために根治的でなくても手術適応になる場合が多く、その流れで外科で化学療法を施行することが多いですが、手術不適応の症例では消化器内科で化学療法を施行しています。
肝臓癌、胆道癌(胆管、胆嚢)、膵臓癌の非切除症例についても数は多くないですが、消化器内科で化学療法を施行しています。化学療法のメニューは各種癌のガイドラインに沿った標準的な治療を行います。

c)消化管ステント、胆管ステント

I) 消化管ステント
食道、胃、十二指腸、大腸の癌による閉塞は嘔吐、腹痛を引き起こします。胃管を挿入してまずは減圧、症状緩和を図りますが、そのままでは胃管が抜けません。解決方法としてバイパス手術(十二指腸が閉塞している時の胃・空腸吻合術など)や人工肛門造設(大腸閉塞)といった外科的治療のほか、消化管ステント留置が選択されることもあります。外科的治療か消化管ステントのどちらを選択するかは一概には言えませんが、全身状態が悪く、生命予後が半年も期待できないような症例はステント治療を選択します。
金属製のメッシュ構造をした筒状の医療器具を狭窄部に留置することにより狭くなった消化管内腔を広げることができます。いずれの消化管でもステント留置手技の成功率は90%以上と高率となります。約90%の方は閉塞症状が改善し、速やかに食事摂取が可能となります。

大腸閉塞部位に金属ステントを留置(写真左)。
ステント留置により狭窄部でも造影剤通過が可能となった(写真右)

II)胆管ステント
膵臓癌や胆管癌で胆管が閉塞した場合、そのまま放置すれば黄疸が進行し肝不全、あるいは胆管炎をきたして敗血症に至ります。このため胆管狭窄部にステントという管を入れて胆汁の流れを確保するようにします。一時的な留置の場合は抜去の容易なプラスチック製のステントを使用しますが、手術不能の癌での胆管閉塞では大口径(10mm程度)の金属製のステントを用います。

胆管癌症例。胆管に金属ステントを留置。十二指腸側からステント下端を観察(写真左)。
ステント留置翌日の腹部単純X線写真(写真右:矢印で示したのがステント。
中央部は拡張しきっていないため若干くびれている)。

・癌以外の消化器疾患

1)消化管疾患

a) 逆流性食道炎・胃食道逆流症
胃酸を含む胃内容物が食道へ逆流することによっておこる食道粘膜の炎症で、胸やけ、吞酸などの症状があります。内視鏡検査の際、発赤やびらんなどの粘膜傷害を認めるものを逆流性食道炎といいます。ピロリ菌感染者の減少に伴う胃酸分泌能の上昇、食生活の欧米化により、胃食道逆流症は増加する傾向にあります。胃酸分泌抑制薬による薬物療法を行います。

吐血で入院した重度の逆流性食道炎症例。
食道中下部に凝血塊の付着したびらんが全周性に認められる。

b) 胃・十二指腸潰瘍
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)や鎮痛剤などの薬剤の内服により、胃酸分泌と粘膜防御機能のバランスが崩れることによって生じる粘膜傷害です。上腹部痛のほか、吐血や下血をきたすことがあります。出血している場合は内視鏡的な止血術(露出血管のクリッピングや焼灼)を行いますが、多くは胃酸分泌抑制薬なにより治療します。

胃潰瘍症例の内視鏡写真。

c) ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎・萎縮性胃炎
萎縮性胃炎は、長年にわたって胃の粘膜に炎症が起こること(慢性胃炎)で、多くはピロリ菌が原因になります。胃液や胃酸などを分泌する組織が縮小し、胃の粘膜が萎縮した状態です。内視鏡検査では、胃の粘膜が薄くなり血管が透けて見えます。
ピロリ菌の除菌により胃・十二指腸潰瘍の予防、将来の胃癌の予防効果が期待されるため積極的に除菌療法を行っております。3種類の薬(胃酸抑制薬1つと抗菌剤2つ)を1週間内服する治療となり、保険診療では1次・2次除菌と2段階の治療ステップが用意されています。95%程度の方が2次除菌までには除菌に成功します。

d) 潰瘍性大腸炎
大腸及び小腸の粘膜に慢性の 炎症 または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を 炎症性 腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)といい、狭義にはクローン病と潰瘍性大腸炎に分類されます。
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜(最も内側の層)にびらんや潰瘍ができる大腸の 炎症性疾患 です。症状は、血便、下痢、腹痛です。病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がります。大腸内視鏡検査や生検所見により診断します。
軽症例は5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)製剤(ペンタサやサラゾピリン)で治療し、難治例ではステロイド剤や免疫抑制薬(イムランなど)を使用。さらに治療困難な症例では抗TNFα拮抗薬(レミケードやヒュミラ)、抗接着分子抗体(エンタイビオ)などの注射製剤を用います。

潰瘍性大腸炎症例の内視鏡写真。
粘膜の血管透過性が低下し、びらん、発赤が多発。

e) クローン病
クローン表も炎症性腸疾患ですが、潰瘍性大腸炎と異なって大腸以外の消化管(食道、胃、小腸)にも病変をきたします。主な症状は、やはり血便、下痢、腹痛です。内視鏡検査(上部内視鏡や大腸内視鏡)や生検所見により診断します。
軽症例は5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)製剤(ペンタサやサラゾピリン)で治療し、難治例ではステロイド剤や免疫抑制薬(イムランなど)を使用。さらに治療困難な症例では抗TNFα拮抗薬(レミケードやヒュミラ)、抗接着分子抗体(エンタイビオ)などの注射製剤を用います。潰瘍性大腸炎やクローン病の両方に使える薬剤が多いですが、中には片方にしか適応がない薬剤もあります。

f) 大腸憩室炎
憩室とは消化管の一部分が小さな風船の袋のような状態になることで、ほとんどが大腸に発生します。憩室自体は無症状であることが多く、その時点では治療の必要はありません。しかし、便が詰まるなどして炎症が起こると憩室炎となり腹痛や発熱をきたします。右下腹部の憩室炎は時に虫垂炎との鑑別が難しいことがあります。膿瘍や穿孔を伴っている場合は手術適応ですが、そうでない場合は絶食、輸液、抗生物質投与により治療可能です。

g)大腸憩室出血
消化器内科に血便で入院する患者さんで最も多いのが大腸憩室出血になります。憩室内の血管が貯留した便によって傷つけられて出血する疾患で憩室炎と違って腹痛や発熱は見られず、突然の血便で受診されることが多いです。大腸内視鏡検査で出血部位を特定してクリッピングで止血することが可能な場合もありますが、多くは自然止血します。

大腸憩室出血症例。
大腸壁にくぼんだ部分(憩室)が散見されるが、そのうちの一つから出血している(写真左)。
本症例では同部にクリップをかけることで止血が得られた(写真右)。

h)虚血性腸炎
何らかの原因で突然、または一過性の血流障害が起きることで大腸に炎症が生じ、血便や腹痛が起こる疾患であり、高齢で便秘がちの女性に多いとされます。高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や動脈硬化を引き起こす基礎疾患をもつ方に発症しやすいとされています。急激な下腹部痛に引き続いて血便が見られるのが典型例です。輸血が必要になるほどの出血には通常なりません。症状やCTでの大腸壁肥厚所見により診断します。絶食、輸液で安静にしていれば通常は数日で治癒します。

i) 胃腸炎・食中毒
細菌、ウイルス、寄生虫によって引き起こされます。以下、特に頻度の多いものについて述べます。
i-1) カンピロバクター腸炎
細菌性腸炎をきたす最近は数多くありますが、本邦で最も多いのがカンピロバクター腸炎です。加熱不十分な鶏肉摂取が原因になることが多く、潜伏期は2~7日間。高熱、腹痛、下痢(緑色便、時に血便)をきたします。腹部症状出現前に発熱が先行する場合も珍しくないです。確定診断は便培養検査によりますが、診断が確定する前にはたいてい症状は改善しています。何もしなくても改善するが、カンピロバクターが経過から疑われる場合はアジスロマイシンを投与します(治りが早くなる)。

i-2)アニサキス症
アニサキスという寄生虫の幼虫がいる魚介類(サバ、アジ、イワシ、イカ、サンマなど)を食べた2~10時間程度後に幼虫が主に消化管の壁に食いつくことによって急な腹痛などを起こす感染症です。胃への感染(胃アニサキス症)が多いが、小腸への感染(腸アニサキス症)もあり、腸アニサキス症は腸閉塞様の症状をきたします(腹痛+嘔吐)。胃アニサキス症では内視鏡的な虫体除去を行います。腸アニサキス症では有効な駆虫薬はないため、絶食、輸液で全身管理を行い自然治癒を待つしかありません。アニサキスは人体内では長期は生存できないため、3~5日で回復します。

胃のアニサキスを生検鉗子で除去しているところ

i-3) ノロウイルス腸炎
冬場の胃腸炎で最多なのがノロウイルス胃腸炎です。感染力が強く集団感染をしばしば起こします。生カキを食べて感染するというのが有名ですがヒト→ヒト感染も多いです。激烈な悪心、嘔吐、下痢、発熱で発症します。症状が強く、救急車を呼んでしまう人も少なくありません。ただもともと健康な人であれば2日ほどで病状は改善に向かいます。

j) 大腸ポリープ.
大腸の粘膜層の一部がイボのように隆起してできたものです。胃のポリープはほとんどが良性ですが、大腸ポリープは、腺腫という「現時点では癌ではないが癌化のポテンシャルのある病変」のことが多いです。
ポリープの茎に金属の輪をかけて切り取る、ポリペクトミーという方法、粘膜の下に薬液を注入して病変を持ち上げてから金属の輪をかけて切り取る内視鏡的粘膜切除術(EMR)が行われます。

2)胆道(胆嚢、胆管)

i) 胆嚢結石、急性胆嚢炎
胆嚢は肝臓の下面にある洋ナシ型の袋で、肝臓でつくられた胆汁を濃縮貯蔵しておく臓器です。胆嚢結石は、胆嚢の機能が低下し胆嚢内にコレステロールやビリルビンが結晶化したもので、約 5~7 %前後の人に見られます。胆嚢の出口の部分に結石がはまり込むと胆汁の流れが阻害されて、「胆石発作」と呼ばれる右上腹部痛(食後に多く、差し込むような痛み)の症状が現れます。この状態で胆汁に細菌感染をきたすと急性胆嚢炎となり、胆嚢は腫れあがり、疼痛が持続、発熱がみられるようになります。
外科的に胆嚢摘出が最善の治療ですが、全身状態によっては手術ができない場合もあります。そのような場合は、抗生物質の点滴を行いますが、抗生物質の点滴だけでコントロールがつかない時は、経皮経肝胆囊ドレナージを施行します。右肋間の皮膚から、肝臓を経由して胆囊を穿刺し、胆囊内にドレーン(膿性の胆汁を体外に出すためのチューブ)を留置します。内視鏡的な治療を選択することもありますが、手技の確実性という観点から当院を含む多くの医療機関において、経皮経肝胆囊ドレナージを第一選択とすることが多いです。

急性胆嚢炎の超音波像。
胆嚢壁は肥厚し、内腔に胆石(矢印)を認める。

ii)総胆管結石、急性胆管炎
総胆管は肝臓と十二指腸をつなぐ胆汁の流れ道です。総胆管の途中で胆嚢と胆嚢の結石が胆管に落下して胆管をふさぎ、肝臓で作られた胆汁が十二指腸に流れなくなってしまいます。胆嚢からの落下ではなく胆管にいきなり結石ができてしまう場合もあります。

胆嚢結石は支流での閉塞ですが胆管結石は胆汁の流れの本流での閉塞になるため、症状はより重くなりがちで、心窩部~右上腹部の痛み、黄疸が出現します。胆汁に細菌感染が起きれば胆管炎となり高熱を呈します。胆管結石が十二指腸へ運よく自然落下する場合もありますが、そうでない時は結石を内視鏡的に除去する必要があります。
高熱で全身状態が不良な場合、長時間の内視鏡治療は避けたいため、第一段階として結石の脇を通すようにして7~10cmのステントというストロー状のチューブ(プラスチック製)を胆管に留置します(下端は十二指腸内)。この処置は10~15分で終わることが多いですが、とりあえず胆汁の流れが確保されれば疼痛は緩和され、抗生物質の効果も期待できるようになります。胆管炎が落ち着いて全身状態が回復した状態で2回目の内視鏡治療を行い、今度は胆管結石そのものを除去することになります。
胆管内の結石をつかんで引っ張り出せばよいのですが、そのままだと胆管の出口の部分(十二指腸乳頭)で結石が引かかってしまい除去できません。このため、結石除去前に十二指腸乳頭の胆管開口部を拡張する必要があり、大きく分けて二つの方法があります。

・内視鏡的十二指腸乳頭括約筋切開術(EST)
十二指腸乳頭から総胆管内にナイフを挿入し、高周波で乳頭括約筋を切開する方法です。切開することで総胆管内に処置具を挿入したり結石を取り出すなどの治療が可能になります。

乳頭切開を行っているところ。

・内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(EPBD)
十二指腸乳頭部にバルーンを挿入し、乳頭部を広げる方法で、ESTに比べて出血などのリスクが低いことが特長です。ただし、術後の膵炎がESTと比べて増加すると言われています。最近では大口径(10~20mm)のバルーンを使用することで(EPLBD)、大きな結石や複数の結石でも採石をスムーズに行えるようになりました。EPLBDは胆管径が太いことが条件になります。

EST、EPBDの使い分けに絶対的な基準はありませんが、結石の大きさによって使い分けることが多いようです。「5mm以下はどちらでも可、5~10mmはEST、11mm以上はEPLBD」辺りが目安かと思われますが、乳頭の状態や抗血栓薬の内服有無、などの色々な因子が絡むため、一概には言えません。

乳頭を太いバルーンで拡張(写真左)、大きな結石を取り出した(写真右)。

・原発性硬化性胆管炎
肝臓の内外の太い胆管が障害されて胆汁がうっ滞し、肝臓の働きが悪くなる病気です。40%の患者さんには炎症性腸疾患(主に潰瘍性大腸炎)が合併します。進行すると肝移植しか治療がないため、いかに進行させないかが問題になります。ウルソデオキシコール酸やベザフィブラートという薬剤が肝機能の数字を下げることがわかっており、早期に診断してこれらの薬を内服することで、肝機能悪化を遅らせることができるのではないかと期待されています。

3)膵臓疾患

i)急性膵炎
急性膵炎とは、膵液に含まれる消化酵素に膵臓自体が消化されてしまうことにより、膵臓や関連する器官に急激な炎症が起こる疾患です。最も多くみられるものは飲酒(アルコール性の急性膵炎)です。次いで、十二指腸乳頭に胆石が詰まって起こる胆石性膵炎になります。また内視鏡を用いた胆管・膵管の造影検査が急性膵炎の引き金となる検査後の膵炎(ERCP後膵炎)も時々あります。
 上腹部痛(最初は軽いが次第に激痛)、悪心・嘔吐が初発症状になります。CTによる膵臓の炎症所見の確認、血液検査での血中膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)の上昇により診断します。
 従来、大量輸液、蛋白分解酵素阻害剤、胃酸抑制、重症になったら即強力な抗生物質、というのが常識でしたが。最近の傾向としては「普通に輸液して鎮痛剤で様子見ているだけで良いのではないか」という風潮に傾きつつあり、専門家ですら戸惑っている面があります。多くの軽症・中等症例は絶食、補液管理で軽快します。

ii)慢性膵炎
膵臓に繰り返し炎症が起こることで、膵臓が痩せて(萎縮)、硬くなってしまう(線維化)病気です。膵臓の中に石(膵石)ができることも多いです。原因はアルコール多飲が最多で68%を占めます。上腹部の痛みや背中の痛みを訴える患者さんが多いです(約80%)。食欲不振、悪心・嘔吐、腹部膨満感などを訴えることもあります。
進行すると消化・吸収が悪くなるために下痢(脂肪便)を起こしたり、糖尿病を合併することもあります。また膵臓が硬くなった結果、胆汁の通り道である胆管が狭くなり、黄疸になってしまうこともあります。

慢性膵炎症例のCT所見。
膵臓に多発の石灰化(白く見える)が認められる。

・治療について
治療の基本は禁酒です。喫煙も慢性膵炎を悪化させるので、禁煙も重要です。ただし両方守れる患者が少なく、優先すべきは禁酒になります。慢性膵炎による痛みの治療としては、痛み止めや蛋白分解酵素阻害薬の内服、消化・吸収不良(脂肪便など)の症状に対しては、膵酵素薬の内服(膵酵素補充療法)を行います。
また主膵管内に膵石が存在する場合、膵石を取り除くことで疼痛緩和が期待されます。膵臓の右側の主膵管内の膵石がある場合、膵石が大きすぎず、多すぎなければ体外衝撃波結石破砕術(ESWL)の適応があり、当院でも施行可能です。入院して週2~3回のESWLを行うことになります(1回1時間程度)。「何cm、何個以上の膵石だとESWLでの破砕は難しい」という明確な基準はありませんが、大きくて多いほどESWLでの治療回数は増えてしまうし、10回ほどの治療を行っても破砕できそうな見通しが立たない場合は外科手術を検討します。膵石症例では主膵管の狭窄が存在する場合が多く、狭窄改善のために狭窄部にステント留置を行うことが多いですが、当院でも行っております。

iii)自己免疫性膵炎
自己免疫性膵炎は膵腫大、膵管のびまん性狭細、血清IgG4高値、ステロイドが有効などを特徴とする慢性膵炎です。

(症状)膵臓が炎症により腫大するため、膵内を走行する胆管が押しつぶされて胆汁が十二指腸に流れにくくなり、黄疸を来たすことがあります。黄疸を初発症状とする自己免疫性膵炎が約6割と最も多くなっています。腹痛はたいていの場合軽く、腹痛を伴わないこともあります。糖尿病の悪化や発症を契機として診断される場合もあります。また、6割程度に体重減少がみられます。

(病因・病態)
自己免疫機序の異常が原因とされていますが、詳細なメカニズムは未だ不明です。高齢者に多く、発症年齢では60代にピークがみられます。男女比は4対1で男性に多い疾患です。また膵臓以外の部位(胆管、唾液腺、後腹膜、肺、腎臓など)にも病変を生じることが知られています。まれな疾患であるため、以前は膵癌と区別がつかず手術されることもありました。現在は手術までされることが少ないですが、癌専門病院に紹介された後に「これは癌ではなくて自己免疫性膵炎ですよ」ということで当院に紹介されるケースが多いです。

(診断)
画像所見(膵腫大、膵管狭細像)、血液所見(IgG4という蛋白が90%で上昇:135mg/dL以上)、病理診断に基づいて診断されます。膵癌との鑑別が問題になる場合は超音波内視鏡下膵生検の施行までが必須になります。一方で膵臓がびまん性に腫大し、IgG4が著しい高値を示すような典型的なケースでは侵襲的な検査は少なくて済みます。

自己免疫性膵炎のCT画像: びまん性に膵臓が腫大(ソーセージ様、たらこ様と形容される)。
膵臓に被膜様構造(黒い縁取り)がみられ、自己免疫性膵炎の典型的所見。

(治療)
ステロイドという免疫を抑える薬剤が大変有効です。ステロイド薬のひとつであるプレドニゾロンという薬剤を1日30mgで1カ月間内服すると、膵の腫大や膵管の狭細像は明らかに改善します。以後は徐々に減量し最終的に5mg程度で維持することが多いです。
ステロイドを短期で中止にしてしまうと再燃の多いことが知られており、少量のステロイド投与(維持療法)をある程度続ける必要がありますが、どの程度の期間続ければよいかはまだコンセンサスが得られていないのが現状です。当院では2.5mgまで減量することはあっても極力オフにはしないようにしています。ガイドラインに示されている通りの3年治療して中止の症例の経過を追ってゆくと自験例ではその後5年で半数以上が再燃しているためです。

膵頭部腫大の自己免疫性膵炎。
ステロイド治療により膵臓が小さくなっている。

*自己免疫性膵炎は消化器内科部長の平野が東京大学消化器内科在籍時より専門にしていた疾患であり、他院からの紹介も多く、当院の規模としては異例の67症例を有しています(2022/10)。

iv) 膵管内乳頭粘液性腫瘍
膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm: IPMN)とは膵管内に乳頭状に増殖する膵腫瘍で、粘液を産生することで嚢胞状となることが多く、膵管が太くなることもあります。「通常の膵臓癌」とは違い、良性から悪性まで様々な段階があり、経過中に悪性化することがあります。
膵管には大通りである主膵管と、そこから枝分かれする分枝膵管があります。IPMNはできる部位によって「主膵管型」、「分枝型」、「混合型」に分けられます。IPMNは女性よりも男性に多く、60~70歳代の方に多く見つかります。多くは良性の分枝型ですが、なかには主膵管型で診断時には既に癌化している症例も含まれます。分枝型IPMNはしばしば膵嚢胞と呼ばれます。
主膵管型、混合型は癌化率が高いため基本的に手術適応とされるので、何年経過観察したらどの程度癌が出てきますという数字は不明です(高いことは間違いないでしょうが)。分枝型については何mm程度の小嚢胞までをフォローアップの対象にするかによって、癌化率も変わってきますが、年率0.5~1%程度と考えられています。当院では5mm以上の膵嚢胞をフォローアップの対象としています。半年~1年に1回の画像、血液検査を定期的に行うことで膵癌の早期発見を目指すことになります。なお分枝型IPMNからの発癌は嚢胞部位だけからではなく、それ以外の部位からの発生も多いです。膵全体を調べる必要があることから腹部超音波検査(膵臓の左側が見えにくい)ではなく、MRIでフォローアップすることが多いです。ただし、やせていて膵臓が超音波でも見えやすい人では超音波検査でのフォローになることもあります。

分枝型IPMNのMRI(MRCP)所見

4) 肝疾患

i) 急性肝炎
肝炎には急性肝炎と慢性肝炎があります。何らかの原因により、急激に肝細胞が破壊され肝機能に障害を及ぼす病気を急性肝炎といい、多くはウイルスが原因となります。症状としては、黄疸、食欲不振、嘔気嘔吐、全身倦怠感、発熱などがあります。治療は基本的には安静のみです。肝炎の原因となる代表的な肝炎ウイルスには、A型、B型、C型、D型、E型の5種類があります。A型肝炎とE型肝炎は急性肝炎の原因となり、B型肝炎とC型肝炎は急性肝炎と慢性肝炎の両方を引き起こします。D型肝炎は、B型肝炎にかかっている場合のみ重複してかかる病気です(同時感染する場合もあります)

  A型肝炎 B型肝炎 C型肝炎 E型肝炎
感染源 生ガキなどの魚介類 性交渉 輸血 豚、イノシシ、鹿肉
感染経路 経口 経皮 経皮 経口
潜伏期間 15~45日 30~180日 30~150日 14-60日
慢性化・肝癌への移行 なし 5~10% 70% なし

このほか伝染性単核球症という発熱、喉の痛み、リンパ節の腫れ、発疹、脾腫などを伴う急性肝炎があります。原因は単一のウイルスではないのですが、30歳未満ではEBウイルス、30歳以上ではサイトメガロウイルスによるものが多いです。

また薬剤性の急性肝障害もしばしばあります。原因薬の中止によりほとんどは自然軽快しますが、時に重症化します。

ii)慢性肝炎
B型肝炎、C型肝炎、のほか自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎が挙げられます。

ii-1) B,C型慢性肝炎
活動性のあるB型肝炎は抗ウイルス薬の内服を行います。進行を食い止めることは可能ですが、完全にはウイルスが消えないことが多く、内服継続が必要です。
一方C型肝炎はこの20~30年で最も治療が進歩した病気です。かつては大学病院の入院患者の半分以上がC型肝炎であるような時代もありましたが、現在の抗ウイルス薬の内服治療は有効率が95%以上あり、新規のC型肝炎は激減傾向にあります。

ii-2) 自己免疫性肝炎
自らの肝細胞を自分の体内の免疫が破壊してしまう自己免疫疾患です。多くは中年女性にみられ、他の自己免疫性疾患を合併することもあります。ステロイドという免疫抑制薬が有効ですが、中止すると再燃が多く、長期内服を要することが多いです。

ii-3)  原発性胆汁性胆管炎
自らの胆管細胞を自分の体内の免疫が破壊してしまう自己免疫疾患で、肝臓内の胆管と呼ばれる部分に炎症が起きます。これにより、肝臓内に胆汁の流れがうっ滞することによってかゆみなどの症状が現れます。中年女性にみられることが多く、甲状腺疾患など他の自己免疫疾患を合併することも多いです。抗ミトコンドリア M2抗体という自己抗体の存在により診断されます。早期に診断してウルソデオキシコール酸という薬を内服すれば多くの場合は進行を食い止めることができます。

ii-4)アルコール性肝障害
アルコール性肝障害はアルコールを常習的に飲んでいる人に発症する疾患です。日頃から飲酒量の多い人は、肝臓に脂肪が蓄積され炎症を起こすことがあります。一般には純アルコール換算で60g/日(日本酒2合、ビールで1.5L程度)が「多量飲酒」の基準になっています。治療は禁酒が原則となります。禁酒により、約30%の方の肝臓は正常化します。しかし約10%は悪化し、肝硬変へ進行します。

ii-5) 非アルコール性脂肪肝炎
飲酒量が少ないにも関わらず、アルコール性肝障害に似た、肝臓へ脂肪が蓄積し炎症が起こる病態です。肥満や糖尿病などの生活習慣病を合併する頻度が高く、治療しない場合には、肝硬変や肝がんなど、さらに重い疾患に進展していく場合もあります。肥満があれば減量が必要です。食事運動療法で7%痩せれば、非アルコール性脂肪肝炎は改善するという科学的な根拠があります。また併存する糖尿病、脂質異常症、高血圧の治療も重要です。肥満や糖尿病合併のない場合はビタミンE(抗酸化剤)が有効とされていますが、保険適用はありません。

*肥満の脂肪肝患者は大変多いです。
当科では「ダイエットの理論と実践」について動画にまとめ、第22回市民公開講座で発表しています。

iii)肝硬変
慢性肝炎の状態が持続、肝臓の線維化が進み、肝臓が硬くなる疾患です。倦怠感や食欲不振、低栄養による浮腫、腹水のほか、黄疸、肝性脳症(血液中に有毒なアンモニアが増え、意識障害)といった症状が認められます。
肝臓が硬くなることによって、肝臓へ向かう血液が本来とは違う食道や胃の血管に流入し、食道や胃の静脈内の血流過多により血管がこぶ状に腫れてきます。これを静脈瘤と呼びます。食道静脈瘤の破裂は大量出血により死に至ることがあります。破裂したあるいは破裂しそうな静脈瘤には内視鏡的な治療(破れた部位を輪ゴムで結紮する治療など)を行って止血、ないし止血予防します。

アルコール性肝硬変症例のCT所見。
肝臓が萎縮。肝臓周囲に腹水が認められる。

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